2006.08.25

研究者を志した1冊 - 稲垣・波多野"人はいかに学ぶか" -

学校がキライだった僕に、研究者になりたい、よりよい学習とは何かを考えていきたいと思わせた、僕の原点でもある1冊です。未だに悩むとこの本を手にとります。もっと勉強して、こんな本に沢山出会いたい、願わくばこんな本を死ぬまでに1冊でいいから書いてみたい、そう思わせる本なのです。

この本の主張は単純です。世の中には、沢山の"賢い学び"が存在し、ひとは誰でもが賢く学んでいる、という当たり前の事実を明らかにすること、だと言えるでしょう。

このために著者らはまず、世の中に広く信じられている"伝統的学習観"の存在を明らかにしていきます。私たちは知らず知らずのうち、"伝統的学習観"を支える前提、"学び手は受動的な存在"であり"学び手は有能ではない"という考えを受け入れてしまってはいないでしょうか。これまでの心理学的な知見もまたそれを裏付けるような証拠を出してきました。
ところが、一旦研究室の外に目を向け、普段私たちが何気なく行っている学びを考えてみると、その前提が大いに疑わしいことは明らかです。

人は世界を整合的に理解する為に、積極的に世界へと働きかけ、必要とあらば周りの環境を組み替え、自分ひとりではなく人とのインタラクションの中で能動的に学んでいくことが、様々な事例を通して明らかにされていきます。

ともすれば"伝統的な学習観"に立ち戻ってしまう僕に、より良い学びがあるよと、そっとささやいてくれる、そんな1冊です。

稲垣佳世子, 波多野誼余夫 (1989) 「人はいかに学ぶか」 中公新書

2006.08.17

【Book Review】柴田義松『ヴィゴツキー入門』

<おすすめのポイント>
ヴィゴツキーが大事そうだなあと思いつつも、一歩が踏み出せない方へ。
だいたい知っているけれど、詳しく話せと言われると「ドキッ」とする方へ。
一応全体像をつかんでおきたいと思う方へ。

<書評>
山内研夏合宿シリーズで扱った流れにのせて、ヴィゴツキー本を紹介しておこうと思います。本当はもう少しヘビーな本を紹介して「おっ」と思わせたいのですが、入門本でごめんなさい。しかし、一歩目を踏み出すという意味では全体が網羅されていておいしい本ではないかと思います。

内容はというと、ヴィゴツキーの生涯、発達の最近接領域、彼のアイデアを生み出すことになった時代背景などなど、ほぼ全体を網羅しています。私は彼のアイデア自体は知っていたものの、その時代背景や彼がどんな人物であったのかということを知るという意味でとてもためになりました。

当然この一冊でヴィゴツキーを知ったというのは難しいです。ピアジェとの関連は述べられていますが、彼が批判された点、さらには彼の後にどんな人が育っていったのかという詳しい点はのっていません。しかし、全体像をつかむことはできると思います。インデックスを作るという意味で、一度読んでおくといい本ではないでしょうか。

ヴィゴツキーを勉強したところでただちに自分の研究が進むというようなものではないかもしれませんが、こうした人物について知っておくことは基礎的な体力づけに最適かなと思います。夏にじっくりヴィゴツキーと向き合うというのもなかなかオツな過ごし方と言えるのではないでしょうか。

ちなみに関連する話が、BEATのメルマガで説明されています。
BEAT -Beating Back Number-
http://beatiii.jp/beating/014.html

[舘野泰一]

2006.08.11

【Book Review】S.パパート『マインドストーム』

Seymour Papert (1980) "Mindstorms" Basic Books
(S.パパート 奥村貴世子訳(1982)『マインドストーム』未来社)

1960年代末にLogoという子ども向けのプログラミング言語を開発したシーモア・パパートによる、Logoの哲学と「強力な概念」の有効性について解説した本です。パパートについては、つい先日行われた山内研究室夏合宿の学習プログラム〈学習研究の古典を読む〉でも取り上げられました。

MITメディアラボ教授のパパートは若いころ、児童心理学者のジャン・ピアジェと共同研究を行っています。強力な概念は外から与えられるのではなく、Logoをプログラミングすることで学習者が自ら構成していくとする彼の考え方には、ピアジェの影響が強く見られます。

この時代特有の、コンピュータが教育の現場に入ればすべてがうまくいく、というユートピア的な未来予想図には必ずしも賛同できませんが(本当にそうなら学習環境デザイン論の必要性はないでしょう)、それまでのコンピュータ教育を転換させた、コンピュータを思考のツールとして活用するという考え方は、今から見ても有効なものだと思います。

ちなみに、ブロック遊びとプログラミングを組み合わせたLEGOの知育玩具「LEGO Mindstorms」は、彼の功績に敬意を表して、この本のタイトルから名づけられています。[平野智紀]

2006.08.03

工藤和美 (2004) 学校をつくろう!

工藤和美 (2004) 学校をつくろう!,TOTO出版


この本の著者である工藤和美さんは建築家。
とりわけ、千葉県市立打瀬小学校(日本建築学会賞受賞)、福岡県立博多小学校など、ユニークな学校建築で有名。現在は東洋大学教授。
http://www.coelacanth-kandh.co.jp

この書は、工藤さんが博多小学校をつくった1460日のプロセスをつづったものである。

私と工藤さんとの初対面は7年前。つい最近はラーニングスタイルセッションでお会いした。サバサバ、きさくなところが九州人だなあ、と思う。彼女は、働く女性としての立場や母としての経験などもうまく生かし、学校のデザインを考えている。珍しい建築家さんだと思う。
最近、ゼミでの輪読文献などの影響でオンラインコミュニティのデザインなどについて考える機会が増えた。この本につづられた実際の学校建築が出来上がっていくプロセスには、オンライン学習環境構築を考える上でも参考になる要素があるように思う。

―私はそもそも建築は、完成したときに立ちはだかるものではなく、存在感がスーッと消えて、そこには生まれるさまざまな活動がメインになればよいと考えていた。主役は子どもたちである。―

写真や設計図などビジュアルな資料も豊富。文章も平易。
いろいろな切り口で楽しめる、この夏お勧めのさわやかな一冊である。

(文責 森玲奈)

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